スポーツ車についての蘊蓄(うんちく)

☆ スポーツ車を買っただけでは、速く走れない ☆

◎チェンジ・ギアについて

(1)チェンジ・ギアとは(ギア・チェンジとは、これの操作のこと)
「変速機」「切り替えギア」とも呼ばれています。加えて補足すると、ギアとは歯車の事になります。普通、実用車などの自転車は、大ギア(前ギア)と小ギア(後ギア)の歯数が決まっているため、クランク1回転に対して後輪の回転数は決まっていて、変えられないことになります。チェンジ・ギアはレバー(中にはグリップ)の操作で、後輪の回転数をかえる装置のことをいいます。
(例えば44T(Tは歯の山の数)と19T、この比44/19をギア比といい、この場合のギア比は2.31578947368…。26インチ車だと、クランク1回転に対して4.805m進みます)→T(丁(ちょう)と、読みます)

(2)どんな種類があるか
1 ハブギア(内装式):後輪のハブ内に組み込んだギア装置でハイ、ノーマル、ローの3種のギア比の選べる装置で、3スピードハブとも呼ばれます。最近では、4スピードのハブギアも一般化されています。

2 ディレイラーギア(外装式):歯数の違う小ギアを5〜9枚フリーホイールの上にならべ、チェーンをその上に移しかえて、5〜9種のギア比を選べる装置のことをいいます。

3 フロントディレイラー:歯数の違う大ギアを2〜3枚をならべ、チェーンを移しかえる装置で、リアディレイラーと組み合わせ、10〜27種のギア比を得られるようにしたものです。最近の主流は24スピードですが、12、14、16、18、21、27スピードなども多くあります(この ** スピードというのは、前ギアの枚数と後ギアの枚数を掛けた数に相当します。例えば、前ギア3枚で後ギア8枚なら、24スピードになります)。

(3)なぜ必要か
長期間、長距離のサイクリングでは、疲労を少なくし、事故防止に役立ち、また山のコースや坂でも、降車せずに走ることができるようになります。

(4)どうして効果があるのか
1 サイクリングでは、なるべくペダルの回転数を一定にして走ると疲れが少なくてすみます。

2 登り坂や向い風、アスファルト舗装道、砂利道(時には砂利道での走行抵抗は減少します)では、人と自転車の受ける走行抵抗が大きくなり、ペダルに加える力を増さなければならないのですが、これをなるべく同じ力で走るようにできると、楽に走れて疲れも少なくなります。実用車のようにギアが一定だと速度をかえるには、ペダルの回転ピッチ(数)を変えなければならないので疲れやすくなります。また坂道では大きい力でペダルを踏まなければならないため、辛いし疲れがひどくなります。チェンジギア付ならその時の速度、坂の勾配、風、路面状況などの条件に合わせ、「エンジン」である人間(の心臓)に一番負担の少ないギア比で走ることができます。

(5)4スピードより24スピードの方が6倍スピードが出るか
速く走るためには(必要馬力=速度×走行抵抗)の式で表される運動の法則にしたがい、その時の走行抵抗に打ち勝つだけの馬力をださなければダメなので、いくらギアを変えても、馬力が不足していては速く走れないことになります。

◎ドロップ・ハンドルについて

サイクリングでドロップ・ハンドルを使用するのは次の理由によります。

1 急坂や向い風で馬力不足の時、上半身の筋肉の力をフルに利用するため。

2 長時間乗車時、操縦が楽なため。

したがって、あまり急な坂道のないコースを走る初歩のサイクリングや、あまり長距離のサイクリングをしない人には、ドロップ・ハンドルの自転車を使う必要は無くなってきます。
腕を左右に水平に伸ばし、両方の指先の距離が150cm以下の人は、腕の長さが不足するために、自由にドロップ・ハンドルを操縦できないようですから、安全に疲れずに走ることは困難となり、身長150cm以下の人はドロップ・ハンドルの付いた自転車に乗るのは大体無理と考えておいた方が無難です。
腕の長さがそれ以上でも、自転車の設計が、ドロップ・ハンドル用になっていなかったり、体格に合わない場合は、上の場合と同様ですから、いくらドロップ・ハンドルにしたくても、オールラウンダー・ハンドルやフラット・ハンドルの自転車のハンドルを自分で勝手にドロップ・ハンドルに付け替えるのは、よくありません。
また、よくドロップ・ハンドルは危ない。という声を聞きますが、それは、ドロップ・ハンドル自体が危ないのではなく、自分のからだに合った自転車を正しく選び、自分の体格に合わせて乗車位置の調整をして自転車に乗ることが大切、ということの裏返しの意味なのです。反対に、ドロップ・ハンドルに飽きてしまったからといって、ハンドルの取り付け角度を90度〜180度変えてみたり、逆方向から取り付けてみたりと、自分勝手に改造して自転車に乗ることは、もっと、危険なことです。

ドロップ・ハンドルの持ち方(使い分け方)は、4通りあります(図解がいいでしょうが、画才もスキャナもないのでご容赦を願います。詳しくは、お目に掛かった際などに実車でどうぞ)。
簡単に書くと、ふだんは、ハンドルの上を握り、急坂や速度を出す時、強い向い風の時だけ下を握る、ということになります。また、長距離を続けて走る場合に、時々握る位置を変えて、手首が痛くなるのを防ぐことができるのも、ドロップ・ハンドルの効用の内のひとつになります。

1 平地をゆっくり走る時や前傾姿勢に疲れた時や急勾配の登りなどは、ハンドルの上のまっすぐな部分を握ります。

2 平地を15km/h程で走る時は、ハンドルの上の肩の部分を握ります。

注)1 2の握り方では、ブレーキ・レバーから手が離れています。何かあったらすぐにブレーキ・レバーが引けるように、常に心構えが必要です。

3 登り坂や向い風、30km/h程の速度で走る時は、ブレーキ・ブラケットの上を握ります(これが通常の握り位置です)。

4 1 2 3の状態で、ブレーキをかける時は、3で握っている状態から、ブレーキ・レバーを手で包み込むような感じで、レバーを引きます(通常のブレーキング操作は、この方法です)。

5 急な登り坂や強い向い風、高速で走っても支障が無いと判断される時(当分、ブレーキング操作が必要無いと考えられる時)は、ブレーキ・ブラケットより下の部分を握ります。

6 5でのブレーキング操作は、5で握っている状態から、親指だけをハンドルの保持に残し、他の全指を伸ばしてブレーキ・レバーに掛け、レバーを引きます。

◎3点調整法について

先に書いた下線部の、「体格に合わせて乗車位置の調整」というのが、3点調整法の目的です。
自転車に乗車している時、人間のからだは、ペダル(ボトム・ブラケットの延長)、サドル、ハンドルの3点でしか自転車に触れていません。つまり、自転車側で、自分のからだの爪先(つまさき)、臀部(でんぶ)、掌(てのひら)の当たる部分を調整すれば、無駄や無理な筋肉運動もなく、快適に馬力を自転車に反映させることができます(ボトム・ブラケットは、BBとも呼び、自転車をこいだ際の駆動力を、まともに受ける場所です。普通、ボトム・ブラケットにクランクが付き、クランクにペダルが付いています)。

(1)自分の体格に合った自転車の選び方
まず、カタログの「フレーム・サイズ」を見て、自分の股下寸法と対比して適当なサイズのものを選ぶことが大切です。(股下寸法−25?)で計算されますが、あまり細かい寸法の刻みはないので、おおまかに、下のようになります。

股下寸法 フレーム・サイズの標準
 70〜74cm →  470mm
 74〜76cm →  500mm
 76〜78cm →  520mm
 78〜80cm →  540mm

(2)正しい乗車姿勢のとり方
乗る人の姿勢はボトム・ブラケットに対するサドルとハンドルの「にぎり」の相対位置で決定します。疲労が少なく、坂道でも楽に走るためには、からだの各部の筋肉が円滑に働く必要があるので、そのために最もよい具合の姿勢をとる必要が出てきます。
上に記したように、サドル、ボトム・ブラケット、ハンドルの点をその人の体格と走り方(ツーリング、レース、日常用)に合わせて調整する方法が、3点調整法になります。

1 サドルの高さの調整法

ペダルを一番下に下げて、靴のかかと(もしくは、靴の一番幅の広い部分)を乗せてみて、膝(ひざ)が軽く曲がるようにサドルの高さを調整します。

2 ペダルの踏み方

ペダルは、土踏まずやかかとで踏んではいけないので、足の親指のつけ根のグルグルしたところをペダル・シャフトの中心に乗せて踏むようにします。

3 サドルの前後位置の調整

ペダルを斜め前にしたとき、膝の関節から垂らした、重りを付けたひもが、ちょうどペダル・シャフトを通るよう(膝関節とペダル・シャフトが鉛直関係になる)に、サドルの前後の位置の調整を行います。

4 正しいハンドルのにぎり位置

ハンドルのにぎりの上下の高さは、正しく調整された後のサドルの上面に対して、フィットネス・バイクやマウンテン・バイクのような自転車のハンドルでは、5cm程高めに、ドロップ・ハンドルでは、ほぼ水平になるようにします。ハンドルの前後の位置(ステム突出長も関係しますが)は、サドルからボトム・ブラケットの寸法に比べて、にぎり位置からサドルの寸法が約3cm短くなるように調整します(芯/芯の長さ)。

5 正しく調整された乗車姿勢

上体はやや前傾姿勢で、肘(ひじ)が軽く曲がっているようになります。
注)サドル、にぎり位置の調整の時、シート・ピラー(シート・ポスト)やステムの下端が、フレーム・パイプ内にわずかしか残っていないようだと危険です。体重のある人や、脚力のある人ではとりわけ危険です。必ず5cm以上フレーム・パイプ内に残っているように確認しておいてください(ピラーやステムには、ハイト・マックスと刻印された、限界線が刻まれています)。

◎キュービットについて

これは、トップ・チューブの長さが体格に合っているかどうかを計る、古来、自転車界独自の単位で、"cubit" と、英語での表示もそのままなので、万国共通語のようです。
股下寸法で決まるフレーム・サイズと、このキュービットで決まるトップ・チューブの長さで、簡略的に、体格に合った自転車を見つけることができます。
キュービットの長さは、自分の肘(ひじ)から中指の先までの長さを指します(人それぞれに違うでしょうから、何cmとかと、具体的な数字はありません)。
実際に車体があれば、自分の腕を曲げて、サドルの突出した先に肘を当て、中指の先がステムに届くか、ハンドルの上にあるのが適合だと、すぐにわかります。が、カタログしかない場合は、算出しなくてはなりません。
さて、実際の長さの計算方法ですが、キュービットに3cmを足します。その数字がカタログに書かれている「フレーム・スケルトン」上での、適合トップ・チューブ長になります(芯/芯の長さ)。

◎マウンテン・バイク(MTB or ATB)についての特記事項

この自転車に関しては、フレーム・サイズの選択方法など、従来のセオリーからは逸脱しており、最近では、身長が高くても、370mm程のフレーム・サイズに乗ることが珍しくありません。また、国内メーカ車ではあまり無いことですが、海外メーカ車などでは、日本人の体格に合わない所に、ハンドルの付いているものもあり得ますので、簡略的な判別方法を記しておきます。
まず、サドルに座り、それからサドルから降りて普通にフレームをまたいで立ちます。そして、上体を少し前傾姿勢にします。このときフロント・フォークの先端が、ハンドルより前方に見えるか、ハンドルに隠れるようなら、適合していると考えられますが、ハンドル越しに、自分側(手前)に見えるようなら、ハンドル位置が遠すぎます。

◎なぜ、こんなにこだわるのか

先の、「3点調整法」のところでも書きましたが、疲労が少なく、坂道でも楽に走るためには、からだの各部の筋肉が円滑に働く必要があるので、そのために最もよい具合の姿勢をとる必要が出てきます。そうでないと、自転車の持ち味であるところの、「楽」をして、体力増強、肥満解消、運動不足起因病の緩解(かんかい)・快癒(かいゆ)、シェイプアップや、コミュニケーションを取りながらの運動などをすることができません。
スポーツ車というのは、安くとも7万円以上の値段のするものが普通ですから、その持ち味を引き出せないで終わってしまうのは、残念至極です。
だから、「こだわる」のだ。と言っても言い過ぎではないと考えています。
しがみつくように自転車に乗っても、疲れます(ずっと、立ってこいでいるような感じになります)。また、子供用三輪車のように、サドル位置が、大きくペダルより後方にあると、非常に疲れます(後輪に伝えるべき馬力を、半分以上捨てています)。自転車は、後ろに蹴るようにペダルを正回転させると、馬力が素直に後輪に伝わります。
そして、ロング・ツーリング(1時間以上継続して自転車に乗ることから含みます)などになれば、「手が痛い」「お尻が痛い」「膝が痛い」「足の指がつった」など、結構、身体的なトラブルが出るものです。

○自転車に乗ることでは、膝への負担は、−0.5Gといわれています。つまり、自分の体重より少ない重力しか掛かっていません。ですから、膝が痛くなるような走り方は、ペダルの踏み方がおかしいことになり、「ガニ股」で自転車をこいでいる人に多くみられる現象です。ペダル・シャフトの上に爪先のつけ根を乗せるようにすれば、「ガニ股」ではこげなくなりますし、足もつったりしません。「トゥ・クリップ」で矯正することもできます。

○サドルの上下位置の調整をすることで、下半身筋肉群効果を引き出し、疲労防止につながり、サドルへの体重負担の軽減をはかることができるので、お尻の痛みの防止ができます。

○サドルの前後位置の調整をすることで、下半身筋肉群出力を引き出すことができるようになるため、当然、素直に馬力を後輪に伝えることができます。

○ハンドルのにぎり位置の上下位置を調整することで、上半身筋肉群活用の効果が上がるため、これも、自分のからだを自転車に「引き付ける」力が増して、馬力を効率良く後輪に伝えることができます。

○ハンドルのにぎり位置の前後位置を調整することで、ハンドルの制御性や制動性(ブレーキング操作)が高くなり、安全操縦につながります。

○ハンドルを握り続けていれば、誰でも多少手が痛くなりますが、これも、お尻をサドルに置く位置をずらしたり、「サイクリング用グラブ」を用いることで、嘘のように軽減されます。

○また、サドルに「ドッシリ」と座ると、お尻が痛くなるもの当然です。お尻がサドルに慣れるのを待つか、サドルは、太モモで保持するものと考えて、全体重をサドル側に持ってこないように、調整することを考えましょう。それでも我慢できなければ、「パッド」付きのサイクル・パンツやインナー・ショーツの使用を考えることになります。

◎つまり…

自転車は人力で動くものと道路交通法などでも定義されている通り、エンジンになる部分は人間の心肺機能や筋力、精神力など個人差のあるものです。しかも上記のようにひとつの「道具」としての自転車を操るにも、いろいろな要素が複合してはじめて性能が引き出されるものです。
またスポーツ車というのは、長い時間ある程度速く移動することを主眼に設計された「道具」ですが、それを動かすエンジンが長い時間ある程度速く移動するために必要な出力を持っていない場合も、「道具」としての100%の性能は引き出せないことになります。これは軽快車に乗っていても乗る人が鍛えられた人であるならば、十分に速さを維持できるということにもなります。
スポーツ車を買ったら、次はエンジンを整えましょう。
すでにある程度速さを維持できる状態であっても、自転車のフレーム形状が変わると調整が必要なのは前述の通りですから、自分のいちばん楽に乗車できる位置やリズムを早く見付けられるようにしましょう。
乗れば乗るほど、自転車が人間に優しく作られていることが実感できるようになります。

◎〔余談〕…「痔瘻」(じろう)にかかる心配は無いのか…

はっきり言ってしまえば、まったく心配の無いことです。例え、もう痔瘻疾患のある人でも、自転車に乗ることは可能ですし、自転車に乗ることで、肛門周囲の筋肉群を盛んに活用することになるので、「肛門のしもやけ」である痔瘻の症状の緩解に役立つことになるはずです。が、何事も急に激しく始めることは禁物ですから、2日に1回の割りで、約15km/hの速度を目安として、20〜30分の乗車程度にしておき、疲れた場合でも、急に、地べたに座り込んだりしない事が大切です。
つまり、痔瘻疾患の無い人でも、疲れて、急に地べたに座り込んだりすれば、「痔主」になってしまう恐れはある、ということです。
登山などでは、
(1)かなり激しい運動で、全身の血行がよくなっている。
(2)重い荷物を長時間背負う。
(3)疲れて休む際、地面しか座る所がない。
(4)登山食が日常食とは違うため、便通が乱れる。



などのファクター(危険要素)が潜んでいますので、「痔主」さんの悩みもよく耳にしますが、サイクリングでは、登山の要素がかなり大きくなるような行動以外では、気にしないほうがいいでしょう。

◎参考文献:

 1970年、財団法人 日本サイクリング協会 発行
 「児童生徒に対するサイクリング指導の手びき」

 鳥山 新一 著、雪書房 発行
 「バイコロビクス 健康サイクリング」

 ベロ出版社 発行
 月刊「ニューサイクリング」誌

文責:鷲津 公有            

発行:AMBクラブ OHmaki 事務局

1993年7月2日 初版
1998年5月18日 改訂
1998年7月24日   
1999年1月21日   

1999/02/24 update 鷲津 公有 Masanao Washidu
(chiefambco;AMBクラブ OHmaki 部長)
e-mail;chief@ambco.club.ne.jp

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